夏の風物詩・魚そうめん
土居好江
春になると春夏限定の魚そうめんが売り場に並びます。デパートでは季節によって並ぶものが変わります。昨日、今年初めて魚そうめんを頂戴いたしました。子どもの頃から大好きで、加工品をあまり買わない私も、魚そうめんとしんじょうは購入します。地域によっては、魚そうめんをご存じない方や、全く食したことが無い方もおられます。
以前、北海道へ魚そうめんをお送りしましたら、お店から北海道へ配送するのは初めてだと申されて驚きました。大阪や神戸の関西圏でも魚そうめんをご存知ない方もおられ、京都独特の食文化であることを知りました。
そうめんの歴史は古くて、奈良時代に遡ります。遣唐使によって中国から伝わった「索餅(さくべい)」がルーツであると言い伝えられています。小麦粉ともち粉をこねて縄状にしたものです。別名麦縄とも呼ばれ、茹でて醤(ひしお)や酢で和えたり、塩味の小豆汁につけたりして食されていたようです。醤油がまだまだない時代のそうめんは味付けが現在とは異なっていたようです。お菓子の一種だったのでしょうか。
平安時代には、七夕にこの索餅を食すると、病にかからないという中国の故事にならって、宮中で食されていました。その後、室町時代に八坂神社の『祇園執行日記』の中に「丹波素麺公事免除」とい記載があり、これが、文献で初めての素麺の記事です。
その後、江戸時代には七夕にそうめんのお供えをする風習もあり、そうめん作りが盛んになります。西日本にそうめんの名品が多いのは奈良の三輪素麺、兵庫の揖保乃糸、香川の小豆島そうめん等、小麦、軟水、海水の天然塩が産地に近いことがあげられます。
魚そうめんはかまぼこ屋さんで製造販売されています。江戸時代の京のかまぼこ職人が遊び心で作り出したのが魚そうめんです。夏の祇園祭りには欠かせないご馳走になっています。蒸し暑い京の夏に、食欲がなくても魚そうめんなら頂ける方も多いのではないでしょうか。鱧の魚そうめんが京都の定番ですが、鱧料理と鱧寿司、鱧の魚そうめんは夏の京都の定番となっています。鱧は生命力の強い魚で、他地域では出汁に取って捨てられるものを鱧の骨を細かく切って食べやすくして、鱧をバラエティ豊か食材にした京都の料理人に脱帽します。祇園祭も別名・鱧祭と呼ぶのも鱧が美味しく食されるからで、京の夏のご馳走の定番となっています。
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