京都のこころ
土居好江
![]() 昭和37年6月25日発行の『古都』初版本 定価350円 |
![]() 川端康成の愛した京都 京都愛物語 オープニング講座 2008年 講師 川端香男里先生 (財)川端記康成念會 理事長 東大名誉教授 |
2006年2月20日の京都新聞に「京都のこころ」と題して河合駿雄文化庁長官(当時)が映画「二人日和」の感想が掲載されました。
「日本人は古くから「もの」と「こころ」の区別をしなかった。川面の輝き、木漏れ日、そして着物にも、すべて「こころ」があった。そのような感じがこの映画全体によくでていて、「京都のこころ」が伝わってくる」と。
ちょうど、2005年に京すずめ学校「土と心総集編」で河合隼雄先生をお迎えした折に、京すずめ会員の栗塚旭さんが主演された映画を5分にまとめてご覧頂きました。「必ず映画を見に参ります」とお約束いただいたのが翌年の冬でした。
当日、河合先生は、何回も涙を拭っておられ、感動されたご様子でした。2004年に、国交省の文化観光懇談会で私が文化観光実践事例としてプレゼンさせて頂いた折、河合隼雄先生もメンバーの一人で、拙い発表をお聞きくださいました。
その折にも終了後、アドバイスを頂き、京すずめの活動を称えてくださったのです。そして、京都への恋文の審査委員長ご就任のお願いをして、資料をお渡した時、「文化庁長官の職にある間は民間の長にはつけないので、長官退任後に審査委員長としてお受けする」と、申請書を背広のポケットにしまわれました。
残念なことに、その後、お亡くなりになり、恋文の審査委員長ご就任は、実現しませんでした。そして、川端香男里理事長(公益財団法人川端康成記念會)に鎌倉から何回も京都にお出ましを賜り、「京都への恋文」審査委員長として、第一回から第二回の審査にご尽力を賜りました。ご病気で入院され、審査に通うことができなくなり、現在の審査委員長の井上章一先生が第三回の恋文審査から委員長としてご尽力頂いております。
井上章一先生も第一回公募から審査委員としてご参画頂いて、川端先生とは真逆のご意見を述べられる場面もありましたが、意見交換するうちに、何となくまとまり、全員が腑に落ちるところで、審査が終わりました。
康成先生は敗戦後、8月6日に原子爆弾が落ちた年、台風が広島を襲い市内は土石流で全滅し、昭和23年に日本ペンクラブの会長に就任して、何回か広島の視察に行かれています。その後18年間日本ペンクラブの会長を務められ、「文学で人を幸せにできるか。文学で平和に貢献できるか」、これが康成先生の想いだったのではないかと香男里先生からご教示賜りました。日本の良さを伝えるため執筆に没頭されたのです。
また、私が感銘を受けたのは ハンセン氏病患者さんの原稿をホルマリン漬けにして読まれたために目を悪くされたということです。
この『古都』初版本はモノトーンの装丁で、京の町を表しているように感じます。京の町はモノトーンで朱色の鳥居や鴨川、桂川等の水辺と東山や西山の山辺のみどりが、とても心地良いものです。康成先生の想いは、ノーベル賞受賞スピーチ「美しい日本の私」から、「人は死んでも何も残らないが、自然はあるがままに残る。この美しい日本を遺し守り、後世にいかにして引き継ぐことができるのか、これが川端康成の課題だったと考えるところです」と教えてくださいました。(京すずめ学校 京都愛物語 川端康成の愛した京都、2008年)
朝日新聞連載中の文化勲章受章の記者会見で「京都を何故舞台にしたのか」
「古い都の中でも次第になくなってゆくもの、それを書いておきたいのです。京都はよく来ますが、名所旧跡を外からながめていくだけ。内部の生活は何も知らなかったようなものです」と申されています。
スウェーデンアカデミーのノーベル賞受賞の評価 (2017年1月公開)では『古都』(英語訳Kyoto)が日本人の生活様式を見事に表現し、倫理観や美的意識、人々を鮮やかに描き西洋的な影響を受けていない。50年間非公開で2017年1月に初めて公開されたことで『古都』が高く評価されたことがわかります。
私も康成先生へのご恩返しと想い、映画「古都」をつくらせて頂きました。プロデューサーとして、ロケ地の選定を行いました。室町通りの御池から五条まで、京町家をロケ地としてお借りしたいと、何軒も飛び込みでお願いに参上しました。その折、京町家を残しておられたご当主様方は、「京町家を解体してビルを建てるのが一番良いと思われていたバブルの時に、ヨーロッパの事例を知り、このまま遺すことが大事と想いのこして良かった」と語ってくださいました。
伝統的な価値観を持ちつつ、最先端産業と融合する京都が、これからの都市のあり方のモデルケースとしての役割も担っていくとまちだと強く思うのです。
川端康成先生、河合隼雄先生、川端香男里先生と、京都のこころを知り尽くした先生方のご教示を身近に受けられたことは、本当に幸せです。京都への恋文公募事業も京都のこころに触れる良い機会でもあります。皆様、是非ともご応募くださいませ。
以上