祝・京料理が無形登録文化財へVOL.1

(1)京文化の究極こそ京料理 
土居好江

立春大吉の料理の一品

覆ってある紙を開けた一品  

前菜

京寿司 盛り合わせ

「京の食文化こそ、京文化の究極」という論文2009年3月に大阪観光大学の観光学研究所報に執筆しました。その折、この論文をご覧になった国の官僚から、「京料理を世界文化遺産に登録するよう動きなさい」とアドバイスを頂きました。京都生まれ、京都育ちの私にとって、とても有難いアドバイスでした。

そこで、キーパーソンになる方々に訴えましたが、全く何も動かなかったことを思い出します。今回の無形登録文化財への動きに、心から感謝・感動している一人です。

京都の文化は四季折々の自然と一体となって、自然の営みを受け入れ、行事や祭が暮らしに根付いて参りました。食文化の源点が京都に息づいているのは、この文化の基底部分の層が厚いからだと思います。特に京都市内の方々は山を365日、季節の色、時刻によって変わっていく様子を見ながら暮らしています。色彩や自然の移ろいに敏感なのは、こういう環境があるからです。

この環境が京料理を生み出した源でもあります。名水が湧き出て、四季折々の旬の京野菜や味噌、醤油、酢などの調味料も豊富で、なによりも美味しさを追求する飽くなき姿勢と、食材を活かす工夫、そして食する空間をいかに心地よくできるかにも配慮して器を選び、盛り付けをして、眼で食し、色彩で食し、香りを楽しみ、五感で楽しむのが京料理です。

余談になりますが、私が結婚する時、将来の夫が「盛り付けと器の関係を勉強してほしい」と祇園の料亭や料理屋、お茶屋に案内してくれました。そこで、随分と自分自身の暮らし方の為に学んだことが今も役立っています。

京都は「引き算の美学」の極みと感じています。丹念に育てられた食材の素材を引き出し、調味料や調理法をできるだけ少なくして仕上げます。旬の素材の良さを活かし、器に小さく盛り付けます。西洋の料理と異なり、素材の味を引き出す料理です。

他地域では出汁を取って捨てられる魚である鱧も、京都では立派な一品になります。骨の多い鱧を一寸(3㎝)に26回包丁を入れるのが上手な鱧切りといわれていますが、料理人は鱧専用の包丁を持っています。祇園祭の時は、鱧料理を頂くのが習慣です。

私は20年間、「京都食物語」という講座を担当して、数多くの食の現場をフィールドワークして参りました。特に、その中でお出会いした配膳さんは、京都にしか存在しない男性だけの職業で、宴会や茶会の総合プロデューサー的な存在です。裏方の大事な方々です。

因みに、京都しか存在しないものには、千枚漬けの刃と千枚漬け用の酢です。京都にしかありません。全国の旅館や料亭の女将さんが京都に来られると、この千枚漬け用刃を買いたいと申され、よくご案内しておりました。

京都の料亭の女将さんが客を迎える時に、できるだけ、身体を小さく見せるようにお辞儀をしますが、これも京都流のおもてなしでしょうか。

以上

 

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