祝・京料理が無形登録文化財へVOL.Ⅱ

(2)京料理とおくどさんー火種を重要視した京の歴史                                                                           

 土居好江


ふく吉の復元されたおくどさん 
築120年の京町家のおくどさんを復元 

やきもちの天神堂のおくどさん
創業以来おくどさんで餡を炊く

 京都には火種を重要視する風習があります。京の古くからの風習に、正月は「をけら火」でお雑煮を炊くという風習があります。大晦日の除夜の鐘が鳴りはじめるころになると、八坂神社へと詣でます。「をけら火」とは、28日の寅の刻(午前5時)に、前夜から参籠潔斎した権宮司が桧の火鑽杵(ひきりぎね)、火鑽臼(ひきりうす)で浄火を鑽(き)り出し「をけら灯籠」に移したご神火のことです。
 その火を31日に釣灯籠のなかの「白朮木」(オケラ)に移します。そのご神火を、吉兆縄ともいう火縄に受けて持ち帰り、正月の雑煮を炊き、元旦を祝うのが、習わしとなっています。

白朮(オケラ)は多年草の薬草で、漢方では健胃薬に用います。正月の屠蘇散にも入っているようです。邪気を払い疫病にも効力があるので、邪気退散を願った風習であり、火の更新の儀式とも言える風習です。新年を迎える時に火種の更新をするのです。

火種といえば、室町時代(応永10年、1403)の東寺に「一服一銭」(喫茶)の営業許可を求めた茶売りの許可に際して、「焼香のための火を茶釜の火種にしない、阿加井(仏に備える井戸水)の水を使わない」という契約内容があり、火種の聖域を守る意識が見られます。

京菓子の川端道喜の由来記にも、「明治天皇の御誕生の産湯の火種は川端道喜邸のおくどさんだったことや、火種を中山邸に運んだことが記されています。また、現在でも火を使う家元や企業では、お火焚祭の時期に、お火焚饅頭が職員や社員に配られています。火に感謝する風習が京都には根付いています。

京都では、同じ川でも上賀茂神社内に流れる川を御手洗川、ならの小川と名称を変えて予呼び、境内からでると明神川と名前が変わります。京都らしい名前の付け方ですが、ここに京都の京都たる所以があります。いわゆるこだわりです。

海外でも、ネイティブアメリカンは儀式の前には天と地、東西南北に敬意を示し聖火が焚かれます。この火は祖父なる火と呼ばれて、人を見守ると伝えられています。地球の自然の四要素であると考えられる火、水、気、地への畏敬の念を、新たにすると考えられた風習です。

 「自然に逆らう文化は野蛮な文化」ということわざがネイティブアメリカンにあるそうです。近代化を否定することではなく、自然に寄り添って生きるという意味でしょうか。

 京都で使い続けられるおくどさんも、千年使い続けている老舗や、復元して使い始めた料亭等、熱力学的にもガスや電気にはない魅力が今も輝いています。
以上

 

 

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