京都の引力26 本物って何?

土居好江

2025年11月30日若宮八幡宮お焚き祭
       

2025年12月7日おくどさんサミット いづ重 祇園石段下

 「本物って何? 幸せって何?」こんな問いかけがコロナ禍以降、増えたように思いませんか。

暮らしの中にこそ、文化が宿ると2001年の京すずめを立ち上げました。明年で創立25年になります。京すずめの哲学、京すずめが大切にしてきたことは、「ほんまもの」に触れて体感することが、普遍的な精神(こころ)を次世代へつなぐと言うことです。

 11月30日の若宮八幡宮さんのお火焚き祭へ参加して, 火の持つ威力浄化と再生の力を感じました。火のゆらぎを見ていると、こころが和みます火を見るだけで、人類のDNAは安心感を得るそうです。

 12月7日は祇園いづ重さんの厨房にあるおくどさんを見学し、おくどさんサミットを開催させて頂きました。おくどさんサミットには1025年、550年、400年、200年とおくどさんを使用されているご当主様が沢山ご参加されました。

 老舗の皆様と親しくさせて頂く中で、学ばせていただいたことは、「損得を超えて、ほんまものを目指す」という共通の経営哲学でした。誰も見ていないところで、誰も知らないところで、伝統は作られています。また、「おくどさんでつくるものは神様に捧げるもの」 と仰るご当主様もおられて、感動致しました。

 今年夏におくどさん未来衆の皆様に原稿執筆をお願いしまして、手元にございます。想像をはるかに超える感動的な内容で、これをどういう形で発信するかの検討をしております。

 ある料亭の大将は 「おくどさんで炊くご飯はただの食事ではなく、自然の恵みと対話するような特別な時間」また、「おくどさんと向き合う日々は自然の恩恵に感謝し、手間暇かけることの大切さを改めて教えてくれます。炎を見つめ、薪をくべ、コメが炊ける音や香りに耳を澄ます。そうした一つひとつの所作を通して、私たちは自然の循環の中にいきていることを再認識する」とございました。

 炎には人類のDNAを蘇させる何かがあるように思います。炎を観ていると脳が色んな事を感受しているのを体験しています。人類の五感についてもおくどさん、炎を通して新たな分野への取組が出来るように思っています。

 おくどさんもほとんどがガスや電気に変わり、手間暇がかかり、維持費がかかるので、消え去るばかりの道具となりました。もし、行政がおくどさん特区のような建築を認めて頂けるのなら、おくどさん文化の継承も容易になります。何か、こういう構想をつくり、提案したいと思っております。

 サミットの参加者の方が感想を頂戴しました。「おくどさんについては、ガスや電気調理器とは一線を画す“おいしさ”を生み出すことは言うまでもありませんが、設備の観点、特に換気・防災の観点から見ますと、 これを維持するための付帯設備やメンテナンスにかかるコストは決して小さくありません(いづ重の方は、排気設備だけで家一軒建つとおっしゃっておられました)。それにもかかわらず、安易に現代的な調理器具へ転換することなく、伝統の技術と様式を守り、使い続けておられる皆様の姿勢には、深い敬意を抱きました」と。

 また、参加された方からは「わたしは燃料に使用していたのは藁ですが、餅つきの蒸籠でもち米を蒸す時の燃料は枯れ木を使用していました。広葉樹と針葉樹の使い分けはしていませんでしたが、燃料によって違いがあることが新鮮でした。日常のお米は藁を燃料にして、藁に空気が通るように折らないように円弧上にして竈の焚口に入れていました。五右衛門風呂も同じように藁を燃料として使用していました。藁を効率よく燃料にする為と藁を家まで運ぶ距離があった為、寒い冬などは、出来る限り運ぶ回数を少なくするためにどのようにすれば少ない燃料でお米を炊けるかを考えていた結果です。

 竈の外形に付いても竈から容器を取り出す時の使用者の便宜を図っていることが竈技師の経験と優しさが伺えました。おくどさんには先人の知恵が凝縮されていると思いました」と。

 いづ重様で毎日ご飯、油揚げ、シイタケを炊いておられるのもそれぞれの素材によって燃やす木を針葉樹、広葉樹など使いわけをされているようです。先人の知恵、暮らしの知恵が詰まっています。

 身近な調理道具であるおくどさんを守り、継承していくため、火にも水にも木や石にも八百万の神が宿ることを知っている日本の文化を、引っ張っていくのが京都であると存じます。

 これからも、身近なところから、京文化、暮らしの文化を発掘、発信して参りたいと存じます。

以上

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