F.NO.2 フェノロジーカレンダー
「四月一日」と書いて「わたぬき」と読む着物の習慣 土居好江
昔、日本の民族衣装である着物は四月一日に綿を抜く習慣がありました。綿というと、クリスマスツリーに飾る綿を思い浮かぶかもしれません。ふわふわとしたものですね。お布団の綿を思い浮かべる方もあるでしょう。花嫁の打掛に入っているふわっと膨らんだ着物を思い浮かぶ方もあるでしょう。
昔は12月頃に、裏地のついた袷(あわせ)の着物に綿を入れて暖かくして、冬の寒さを凌いだのです。6月には裏地の無い単衣(ひとえ)になります。盛夏のころには薄物の呂や紗を着るようになりました。冬には丹前(たんぜん)という綿入り着物もあります。父がよく着ていたのを覚えています。
季節に合わせて調節する着物の長年の習慣が、わたぬき(四月一日)という言葉を生み出したのです。
更衣(ころもがえ)の季節、昔は糸を抜いて一反の布にもどして、仕立て直す度に水で洗い張りをしました。生地は長く切ると伸びるので、糸を抜いて洗い直すのです、石鹸の無い時代、工夫をして、着物を解いて元の反物に返して、洗濯をしていました。今のSDGsそのものですが、江戸時代は古着屋さんが店舗の種類で一番多かったと言われています。
水が豊かな洗い場が豊富な日本では、洗い直しがしやすい環境にありましたが、西洋では10年間選択しない洋服もあったそうで、文献を読んだときは驚きました。
西洋の洋服と異なり、直線でつくられる着物は共有したり、仕立て直して誰かに譲ったりできるもので、エコな仕立て方と言えるでしょう。
袷 桜柄の着物
京ごふく 二十八(ふたや)様より写真提供