雨とわび、さび

土居好江
歌川広重「大はしあたけの夕立」

「西洋では雨を点々で描くが、日本の浮世絵は何故、線で雨を描いているのか」と。染色作家の奥田祐斎先生が、アメリカで質問を受けたそうです。その時はとりあえず「西洋の鐘はカチンコ、カチンコと鳴る。日本の鐘はゴーンと鳴る」とその場しのぎの解答をされたとのこと。

もう20年前のことのようですが、帰国後に勉強して、雨を線で描くのが、日本のわび、さびであることに気づかれたそうです。日本人はその瞬間の美しさではなく、時間の経過の美しさを描きます。青畳が変色していく様子、仏像や建物の色が変化していくことも、わび、さびとして捉えたのです、雨が線で描かれているのも、じかんの経過を線で表しています。一瞬の雨と時間の経過を含んだ雨の表し方に、西洋と東洋の雨の捉え方の違いがあります。

出来上がった瞬間が一番美しいというのは、西洋的な捉え方です。日本では、時間の経過も含めて美を完成させます。

たしかに江戸時代の浮世絵の雨は線で描かれています。雨を線で描いた世界で最初の画家は歌川広重です。それをゴッホが真似て、一気に世界に知られるようになりました。雨の季節、雨からわび、さびについて思いを馳せてみました。
以上

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