川端康成先生のお誕生月・6月 <3>

京すずめ学校川端康成の愛した京都 京都愛物語
オープニング講座 2008年
講師 川端香男里先生 (財)川端記康成念會
理事長  東大名誉教授
 
菩提の滝

 土居好江

 川端康成先生のお誕生月にちなんでシリーズでブログを書かせて頂いています。京都には康成先生が心に刻まれた風景が今も沢山残っています。京都市は盆地で三方が山に囲まれ、365日、毎日山を見て暮らしているのです。山の色合い、自然の色彩に敏感なのも、こういう環境にあるからでしょうか。

 京すずめ学校の「京都愛物語」のカリキュラムのオープニング講座で、「川端康成の愛した京都」の講座を2008年に川端香男里先生にご講演賜りました。

 川端康成先生の養女・政子さんを妻に、川端家に入られ、ノーベル賞受賞の前から康成先生とご一緒されており、京都に対する康成先生のお気持ちをお伺いすることができました。残念なことに川端香男里先生は2021年2月3日、87歳でお亡くなりになり謹んで哀悼の意を表します。

 香男里先生は鎌倉から何回も京都に通って下さり、いろいろなことをご教示賜りました。渡月橋付近を散歩しながら、お話させて頂いたことが、昨日のように楽しい思い出として、蘇って参ります。その時はパリでのフランス語で講演のことや、ご自身の健康管理法などをお伺いいたしました。

 「京都愛物語」のカリキュラムから誕生した「京都への恋文」公募事業の審査委員長として、何回も京都に通って頂き、その度に康成先生の想いをご教示くださいました。

 自然に対する深い想いと、京文化や京の歴史が『古都』を誕生させたのでしょうか。『京洛四季』の序文 都のすがたーとどめおかましの中に「私は京のまちを歩きながら、山が見えない、山が見えないと、われにもなくつぶやきつづけてかなしんでいたものだ。みにくい安洋館が続々と建ちはじめて、町とおりから山が見えなくなったのである」と東山魁夷先生の『京洛四季』連作発表の折に書かれた内容です。

  『古都』の中にも自然に対する鋭い視点がいくつも描かれています。特に北山中川地区にある北山杉の菩提の砂のことが書かれています。

「菩提の滝」は今から六百年前、山の中で全国を修行している高僧が、現在の京都市北区北山中川地区の集落で行き倒れになりました。村人の懸命な約6ヶ月間にわたる看病で完治しました。

 村人に伝わる話では、「中河村はお米が採れないのに、長い間、こんなにもご親切にして頂き、有難うございました。何かお礼をしたいのですが、何も差し上げるものがなくて、なんのお礼もできません。そのかわりに良いことを教えましょう。この村にある菩提の滝の砂には、どこにもない珍しいパワーのある砂があります。この砂を使って、この杉丸太を磨けば、必ず、この村は栄えるでしょう」と伝えたのです。

 菩提の滝後方の赤砂山に降った雨が流れて滝つぼにおちた砂は、花崗岩が風化した砂の真砂工という砂です。土だけではなく何か強い力があると感じて、高僧は「菩提の滝」と名付けました。

 20世紀になり、菩提の滝の北山磨き丸太の砂を分析した所、半導体デバイスを作るうえでなくてはならない元素が、含まれている地層が存在することが分かりました。

 北山杉磨き丸太を仕上げる時に使用する砂を採取する菩提の滝の周辺が、正に現在のパワースポットです。砂に含まれている成分にはZr(40 ジルコニウム)、SiO2(水晶)の層もあってSi(14 ケイ素)、SiC(炭化ケイ素)が含まれている鉱床の存在が分かってきました。これらの物質は、研磨剤、磨き剤、砥石とする以外に、21世紀の科学技術で脚光をあびている半導体基板のシリコンウエハを構成する物質であり、現在の我々の周りにある物は何らかの形でシリコンウエハを使用したデバイスが使用されています。SiCに至っては、エネルギー革命を起こしつつあるパワーデバイスのSiCウエハです。かつては砥の粉の発掘場だったことも納得できます。

 今年に入って世界各地から菩提の滝を訪問する方が多く、フランス、アフリカ、チュニジア、カナダ、ロシア、イタリア、ドバイ、オーストラリアからも訪問者があったと、中川地区の方からお聞きしました。菩提の滝に降りる階段が洪水で潰れて遠回りしなければなりませんが、多くの訪問者があります。

 京都のスーパースポットに相応しい場所として、整備されることを心から、願っております。(つづく)

以上

 

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