京都府知事賞

都には あまねき人の 平安を 祈る僧尼の こころ満ちたり

鈴木邦義 74歳(神奈川県横須賀市)

京都市長賞

細くたおやかな指先が頬に触れなんとして、瞑想の美を現出する広隆寺の半跏思惟像。
私の京都は、その美しく繊細な指先に凝縮されている。
それは、京都に残るあらゆる文化に共通する「こまやかさ」の象徴である。
西陣織、友禅染、京焼などの伝統工芸は言うに及ばず、かな書、京菓子、京料理と、「細やかな」指先が生み出す芸術は枚挙に暇が無い。
それらの根底にあるのは、しだれ桜、鴨川の流れ、嵯峨野の紅葉、北山の雪といった四季の景物と、その美を賞賛し楽しもうとする京都人の「濃やか」な感性であり、それは争いを避け相手を気遣う京言葉にも、頬に触れなんとして留まる菩薩像の心となって現れている。
こうした二つの「こまやかさ」が一体となって生み出す京の心が、私の思い描くはんなりとした京都を形作っているのだろう。
京都、その地への思いは隔たるほどに憧れとなって降り積もる。
それで私は近頃、無性に京都の繊細な美と心に会いたいと思うのだ。

五十嵐 裕治 54歳(茨城県那珂郡)

京都新聞社賞

打水や 石のかをりの やはらかさ

白石 沙織  15歳 高校生(愛媛県伊予郡)

遊悠舎京すずめ理事長賞 Ⅰ (2点)

厳冬の京都、錦市場にて。私は半開きの小銭入れを持ち漫ろ歩いていた。香ばしい焼穴子につやつやのお結び。錦市場はいつも私を移り気にさせる。
その時、前を見ず歩いていたせいで通行人と衝突した。辺りに大量の小銭が撒ける音。これは大変だぞ、と冷や汗をかく前におばちゃんの声が響いた。
「皆よけて!この方小銭落としはった!」
そう言っておばちゃん自ら腰をかがめ小銭をかき集めてくれる。道行く方も手伝ってくださり、一瞬で私の手元に小銭が戻った。
「良かったなぁ。さぁこれでも食べな」
礼を言う前に、掌に漬物が乗せられる。おばちゃんはすぐ傍の店舗の漬物屋さんだったのだ。頂いた千枚漬は、京都の冬のようにきりっと冷たく、おばちゃんのように優しい味がした。
私はありったけの小銭で千枚漬を購入した。おばちゃんは飛び跳ねんばかりに喜んでくれた。懐は寒くなったけれど、その分心はとても暖かかった。私の、大切な京都の思い出の一つである。

秋山瑞葉  21歳(香川県仲多度郡)

遊悠舎京すずめ理事長賞 Ⅱ

京都への恋文第2回

杉山楓 19歳 短大生(岐阜県岐阜市)

審査委員長賞

兄妹で 父のズボンの ベルト持ち 清水寺の 坂道のぼる 

黒木直行 70歳(宮崎県日向市)

特別賞作品Ⅰ

東山にある女学校へは市電で通い、授業ではシューベルトの「菩提樹」を習った。当時ウィーンはドイツの一部で、日本とドイツは同盟国だから「菩提樹」は歌ってもよいのだ、と先生が言った。学校の帰りに時々寄り道をしては京極へ行き、映画をみた。しかし戦争が激しくなると学校へは行かず、勤労動員で三菱に行った。工場では、左手親指の先が機械に巻き込まれ、二つに割れた。
空襲警報が鳴ると、飼い猫のタマがいなくなる。が、解除されると、かまどの中からくしゃみをしながら出てきて、家人の顔を見ては嬉しそうにニャオンと鳴いた。黒猫のタマが灰をかぶり、白猫になっていた。外に出てみると南西の空が真っ赤に燃えていて、近所の人たちがそれを見ながら口々に、「大阪がやられている。かわいそうに。」と言い合った。しばらくすると、決まって京都にも雨が降るのだった。
娘だった母を慈しんでくれた京都。今の母にはこんな京都の記憶のみが鮮明である。

濱野 玲子 57歳(大阪府吹田市)

特別賞作品Ⅱ

京都への恋文第2回

舞妓はんの下駄。そしてまわりにある花は着物の柄をイメージして描きました。

小川量香 14歳 中学生(宮城県仙台市)

佳作Ⅰ (5点)

私が小学生だった50年前の夏の京都。祇園祭も終わり、五山の送り火を共にお精霊さんもお送りし、地蔵盆では、大きな数珠回しをしてお菓子をもらって、近所の友達と遊ぶ・・・。こんな行事が過ぎていくと共に、京都の暑い夏も終わっていくのです。
お祭りの始まるまえには、畳の上には網代が敷かれ簀戸、御簾、そして蚊帳、子供の頃には、これらがすごくうれしくて、浴衣を着てよく寝ころがったものです。
近所のおまんやさんで、わらびもちや、おしんこを買ってきて、家の中の井戸にはスイカを丸ごと冷やし玄関先、坪庭には打ち水をして、家中、開け放して風を通す。
なつかしい風景がよみがえってきます。
暑いのが、あたり前の夏。
「家の造りは夏を旨とすべし」と兼好さんも言っているように、京都の夏には先人の知恵がつまっていました。
どんなに便利な世の中になろうとも、自然を暮らしの中にとり入れてきた京都を忘れることは、ありません。

谷口 早苗  60歳(兵庫県宝塚市)

佳作Ⅱ

余震やさかい気ぃつけてなぁ

久しぶりの震度5に日本中が揺れた日。 祇園のおかあさん(大親友と呼んでと言われている)康子さんから電話があった。
「これは東日本大地震の余震やさかい。大正大震災の時も10年は続いたし、あまり怖がらんと、でも用心してお気張りやす」
大親友・康子さんの本当の年齢はわからない。
私は新撰組が好きで、池田屋跡を見たいと言ったら
「血のりは掃除しても取れないし臭いし怖いしホンマ迷惑なこっちゃ」
と、まるでそこにいたかのように話してくださったことがある。
そういえば、都をどりに案内して下さったときも、馬券売り場に群がるくわえタバコの人たちを見て
「みんなしてお金出し合うとかして別のトコ行ってもらえばよかったんや。本気で祇園を守っとけばこんなことにならへんかった」
と悲しそうな顔をされた。
守るものが日本一多い京都だから、住んでいる人ができないなら、私たち外にいる人間が助けなきゃ。

後藤 ゆうひ 中学生(秋田県横手市)

佳作Ⅲ

アルバムに 京のお宿の 箸袋

野田美和子  51歳(愛知県刈谷市)

佳作Ⅳ

しんしんと 雪降る古刹の 門前に 重き笠着る 雲水一人

大窪誠一郎 55歳(兵庫県神戸市)

佳作Ⅴ

京都への恋文第2回

小野寺 夏希 17歳 高校生(岩手県奥州市)

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