審査委員長 川端香男里氏(川端康成記念曾理事長、東大名誉教授)

京都への恋文 第1回「京都への恋文」は、遊悠舎京すずめ創立10年目ということで行われた企画でございます。歴史と暮らしに根付いた京都の魅力につきましては、本日も新幹線で鎌倉から参ったのですが、多くの修学旅行生が訪れ、ここ嵐山に来る人も大変多く、日本人の京都好きということが分かるところであります。
歴史、時の流れのなかでどんどん煮詰められて、とろりんとしたエキスが積み重なって、難しく言いますと重層的といいますか、京都の特徴というのは、先ほど見ましたオリベッティ社の映画にもありましたように、一部を切り取っても大変な奥深さがあることが、外国人にも分かるだろうと思われます。そのような、重層的な歴史的都市の積み重なりの魅力というのが、京都の魅力の中心になっているのではなかろうかと思います。
そういったことを踏まえて、見事に表現しているのが京都府知事賞の松嶌さんの作品でございます。プリントされているものをご覧ください。実は、860もの中から作品を選ぶというのは大変な作業でございましたけれども、私がいうのも何ですが、審査員の先生方のご努力により、選ばれたものは的確であったと思われます。 
つまり、時の流れの中でいろんなものが積み重なって、その結果、京都に残っているものが、いかに重層的であるかということがよくわかります。このことについては、佳作の上柳さんが良い例です。この方は京都在住の方でありますけれども、京都の魅力がどんなものがあるか列挙されている。圧倒されるほどのものがあるわけでございます。こういったものが京都府知事賞の松嶌さん、佳作の上柳さんの文章に見られます。
京都は京都の人だけでなく日本人全体の心の故郷といっても過言ではないと思います。また特徴的なのは、人生のある一時期のかぎりのような、あるいは出会いのようなもの、出会いの場所というものを京都が惜しげもなく提供してくれているということです。
先ほど、修学旅行生のことを言いましたが、多くの日本の中学、高校の生徒が、場合によっては大学のゼミなどもあるでしょうが、そういう経験をしている。そういうことが京都市長賞の狩野さんの文章に、佳作の内川さんの文章にも典型的に見られていますが、他にも沢山見られました。
このコンクールの題に恋文という言葉を選ばれている。何だろうという風に思った方もいらっしゃるかもしれませんが、京都に対する愛着を恋になぞらえて比喩的に言ったことは大成功だったと思います。「京都への恋文」という発想は見事でした。つまり、恋としかいいようがない愛着というものが京都に対する心のなかにある。ですから、京都新聞社賞の谷口さんの絵手紙がございますが、これは簡単な文章が書いてあります。絵がとても素晴らしいですけれども、「変わらない街があるから、変わっていく私がいる」と書かれています。何の変哲のない文章のようですが、物事のすべてが激しく変転する中で、京都は常に「恋人」として変らぬ存在であり、その支えによって私は変化し成長していくことが可能になるということが、的確に表現されています。こういう発想を生んだということからも、「京都への恋文」という表題は絶妙だ、秀逸だと自画自賛してしまったことになりますが、ご理解頂けると思います。
歴史的都市京都の重層的な文化ということを申しましたが、京都では何事によらず、表だけではなく裏があり、それがまた奥深さを持っている。それで、ガイドブックに載っていないような知識だとか見方だとか、一人ひとりがもっていて、それを楽しみにする。
理事長賞をもらった俳句、そして審査委員長賞をもらった京都通の話とか、俳句、川柳から2つだけ選ばせて頂いたんですけれども、京都のこのような重層の味を表している気がいたします。
最後の絵手紙の中で非常にきれいなお野菜をいっぱい描いてある、こういう絵手紙に、実に秀逸ものがあったんですけれど、なかなか全部を選びきれないのでこの2つを拾っただけになりましたが、全体を通してみますと、非常にこれが印象的、そして、またそれがよく分かるようなものであったということです。
京すずめの方がお考えになっている京都が、京都らしくあり続けるための運動は、日本の危機、開発の危機に対するきわめて敏感な対応だと思います。
京都は日本が世界に誇る世界遺産ではありますが、アテネのパルテノン神殿のような文化遺産とは全く異なります。パルテノン神殿は現在の生活や暮らしとは全く関係ない。文化遺産として残ってはいますが、過去と現在が断絶しています。生活のにおいがほとんど残っていない。ところが、京都では暮らしや生活が残っているのです。
川端康成の小説『古都』は外国では『kyoto』と訳されて、京都という都市のガイドブックのようにして読まれていますが、歴史がそのまま現在に生きている都市・京都への憧れの気持ちを誘うようであります。
「京都への恋文」という試みは、現在に生き続ける古都への関心を高める上で、大きな成果を上げたように思います。長くなりましたが、全体の講評を述べさせていただきました。

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