網代(あじろ)衣食住の衣替え

土居好江

ごはん処矢尾定さんのあじろ、夏のしつらい

1階には祇園祭・大船鉾の車輪が収納 全鉾の粽も展示

ROKU KYOTO ,LXR Hotels&Resorts レストランTENJIN                                                          粟田山荘

以前、娘のフランスの友人が我が家に滞在した時、「布団かベットがどちらで休みますか」とお聞きしたところ、布団と即座にお返事が返ってきました。「日本に来たので、布団で寝たい。靴を脱いで家に入るって映画みたい」と大喜びでした。靴を脱いで家に入るという作法は、欧米ではありません。靴を脱ぐから布団の発想が生まれます。靴のままの生活では、ベットの発想しかないでしょう。以前京都に来られたムスリムの方を1週間、研修担当をさせて頂いた時に、私の事務所で、お祈りの時間に、小さい絨毯をひいてお祈りをされていましたが、靴は履いたままだったと記憶しています。

靴を脱ぐ文化と靴のまま暮らす文化の違いは、見えない心の奥底にも関係しているようにさえ、思われます。

 四季のある日本は畳の上に段通をひいて寒さをやわらげ、熱い夏いは網代をひいて涼しく暮らす工夫をしています。いわば、季節毎に家を丸ごと衣替えするのです。障子やふすまも夏用、冬用と工夫をします。京町家は暑い夏に風が通り抜けるよう設計されています。中庭は風通しの為にあるそうです。

 京都人は衣食住の衣替えをするのが得意です。夏は浴衣、ガラスの器に氷を入れて花を散らしたり、塗りの大きな器に氷を入れたおもてなしも涼を呼び込みます。ガラスの器で涼しそうに盛り付けた中に「蘇民将来」の小さい札も一緒に盛り付けた料理が、京都の料亭では良く提供されます。これも7月らしい盛り付けです。京の盛り付けは、引き算の美学で小さく盛り付けます。他地域では

大きく見せるために、大きく盛り付けるようです。京都府内を食べ歩いて分かったことですが、京都府の地域によっても、盛り付け方が異なります。

 京都市内の同じ飲食店でも、北部と南部では味付けを少し変えていると、ご当主からお聞きしたことがあります。何にでも工夫を重ねることが、京都人の特異技です。

京料理、京町家、京野菜、京豆腐、京麩、京湯葉、京うどん、京菓子、京蝋燭、みんな、京都の暮らしを楽しむ工夫の積み重ねでもあります。

先人に感謝!感謝!

以上

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